いよいよ初代タイガーマスクのデビュー戦がテレビ中継され、全国のプロレスファンにお披露目となります。

当時の新日本プロレスの中継は、毎週金曜夜8時から行われていました。これは日本プロレスの時代から引き継がれているもので、世間にも「金曜夜8時といえばプロレス!」と周知されていたと記憶しています。

新日本プロレスは数名の外国人選手を招聘し、4~5週間のシリーズを年間8回ほど組んでいました。

放送は、基本的に生中継を中心にしていました。今まさにそこで行われているものをそのまま見られるライブ感という意味ではとても興奮するものでしたが、時々、中継枠に収まらず、試合の結末が分からずにモヤモヤしたものが残るのも事実でした。

ですから、シリーズのクライマックスである最終戦は、録画中継にすることで、しっかり結末まで放送することができ、尻切れトンボのモヤモヤを残さないようにしていたのです。

よって、基本的にシリーズ開幕戦を生中継が行われる金曜日に、そして数週間後の最終戦は木曜日にするよう日程を組んでいました。

ちなみにこれには、外国人レスラーのギャラの支払いも関係があったようで、外国人レスラーのギャラは「1週間で○○ドル」と週単位で計算していたので、金曜始まり木曜終わりという日程は、そちらの面でも都合がよかったようです。

タイガーマスクのデビュー戦は4月23日、ということは、翌24日に全国に中継された・・・

のでは無く、4月24日はプロ野球中継が行われたため、「ワールドプロレスリング」の中継はありませんでした。よってタイガーのデビュー戦は、翌週の5月1日に放送されます。もちろん当時は今のようなネット動画やSNSが発達した世の中では無かったので、ここで全国の多くの人々がタイガーマスクを知ることになります。

当時のプロレス中継は1時間枠で、2~3試合が放送されており、この日の放送は、タイガーvsキッド、猪木vsハンセンの2試合でした。

現在は、様々なメディアで見ることができる試合ですが、入場シーンはカットされていたり、版権の関係で別の音楽に差し替えられていたりする場合がありますが、当時の放送では、入場シーンから始まっています。

まずは、タイガーマスクの入場ですが、この日は2組のロックバンドが入場テーマを生演奏するという企画で、タイガーは「BRAIN WASH BAND」によるオリジナル曲(後に、タイガーマスクを扱ったLPレコードに収録された「バーニング・タイガー」)で入場してきます。ちなみにデビュー戦では、入場時にコーナーポストに立っていません。

次に、キッドが「外道」による「乞食のパーティー」のインストアレンジで入場してきます。ただ、順番としては、キッド→タイガーの順になるのでは?と思ったのですが、タイガーが入場した後に何らかのセレモニーが行われていたようで(どうやら、劇画「タイガーマスク」の原作者である梶原一騎氏がリングに上がって、タイガーマスクの紹介をしていたそうです)、しかし、放送ではそこはカットされていたのです。

いよいよ試合が始まりますが、当時小学生だった私も、幸運なことにリアルタイムで見ることができました。しかし、当時の私はアニメの「タイガーマスク」は大好きで見ていましたが、「プロレス」には全く興味がありませんでした。

ちょうどお風呂に入ろうとテレビのあるリビングを通ったところ、プロレス好きの父親が、「おい、タイガーマスクが出てるぞ。」と教えてくれたのです。そのお粗末なマスクを見たとき「何だ、これ。どうせ大したことは無いんじゃないの。」と見ていたのですが、その鮮やかな動きに驚いたことを覚えています。

試合内容はご存じの通りで、後に「タイガー・ステップ」と称される独特のフットワーク(ハリウッド・ザコシショウのネタにありますね笑)から始まり、鮮やかな回し蹴り、対戦相手を手玉に取るような切り返し、こちらも後に「タイガー・スピン」と称される、ヘッドロックからクルクルッと回転しながら足を取って相手を倒す技、そして相手の胸板を蹴りながら駆け上がる「サマーソルト・キック」!!人間離れしたその技は、本当に衝撃的でした!!

そして最後は鮮やかな「ジャーマン・スープレックス・ホールド」で見事に勝利を飾ったタイガー。ブリッジの美しさは本当に素晴らしいです。

私もこの一試合で、一気にタイガーマスク、プロレスの虜になってしまいました。私と同じような方が全国にも多くいらっしゃるのではないのでしょうか。

改めてこの試合を見てみると、キッドの受けの上手さもこの一戦を名勝負にした一つだと思います。ヒールチックな動きを出しながら「タイガー=正義のヒーロー」的な構図を作り、タイガーの攻めに対し豪快に受け身を取ることで、タイガーの強さや上手さを際立たせる。

「キッドが対戦相手でなかったら、デビュー戦の成功は無かった。」と言われるのも納得でした。

また、常にカメラに映る位置にいる新間さんが、タイガーマスクの鮮やかな動きにしてやったりの笑みを見せるところ、サマーソルト・キックが決まったときには、思わずエプロンを叩いて喜んでいるところなどを見るのも面白いです。自分が企画に携わった者として、予想以上の成功で、ホッと胸をなで下ろしたことでしょうね。

ここから、タイガーマスクの伝説が始まります。

なお、タイガーのデビュー戦の予告が、4月17日の鹿児島大会の生中継の最後に行われていました。

ワールド・プロレスリング 81.4.17放映分

古舘アナ「なお、次回のワールド・プロレスリングは、東京・蔵前国技館から、シリーズ最終戦の模様をお送りしてまいります。二大エヴェント、まず、NWFヘビー級選手権、猪木vsハンセン、今夜の再戦が行われます。さらには、謎のマスクマン、タイガーマスク対ダイナマイト・キッドの一戦もお送りします。どうぞご期待いただきたいと思います。」